きみのうた
「路地裏の歌姫」


少女は背は低めの150cm位で、少し茶色がかったボブカットの黒髪。
フードのついたトレーナーに、少しだぼついたブラックジーンズを身に纏いギターよりもかなり小さな弦楽器を軽やかに鳴らし、歌っていた。
さっき速水が耳にした歌とは違うらしく、とても楽しそうにテンポの良い歌を歌っている。
足を止めて、速水は聞き入る。なにやら彼女の歌う歌に思うところがあるらしい。
一曲歌い終えた少女に拍手を送る。
「聴いてくれたの?」
送られた拍手にそういって顔をあげた少女を見て、速水はぎょっとした。
にこり、と笑いかける少女は恋人の舞にどことなく似ていたからだ。もっとも、舞がこんな風に人懐こく笑いかける事は殆ど無いわけだが顔立ちや、雰囲気が似ている気がする。
少女は暫くきょとんとしていたが、速水が余りにもじっと見ていた為か、ふわりと笑って口を開いた。
「そんなに『誰か』に似てますか?」
思惟を読まれたかのような問いかけに驚いて
「あ、いや、まぁ・・・。」
と、答える速水に少女は、また笑うと再び歌い出す。
やわらかで 切なげな歌
軽快で 愉しげな歌
飽きることなく歌う少女の歌を、速水は飽きることなく聴いていた。
暫くしたあと、少女は速水に問いかけた。
「ねぇ、君軍人さんでしょ?お仕事大丈夫なの?」
「最近は出撃も少なくて、ヒマなことが多いから。」
「ふぅん、そーなんだぁ。」
ぽろん、ぽろんと楽器を鳴らしながら立ち話を続ける少女に、速水は意を決して願い出た。
「歌を、教えてくれないかな?」
「歌?」
目を丸くして聞き返す少女に
「うん、歌と・・・楽器もなんだけど。」
速水の言葉に少女は「むぅ。」と少し考え込むと言った。
「理由、教えて。」
「理由?」
聞き返す速水に少女は、にっと笑う。
「そ、理由。
わたしの歌う歌は、わたしが作ったものじゃないけど大事なものだから、教えるにはそれなりの理由のある人でなくちゃ。」
そう言われて速水は考える。
どうやら彼女の歌う歌には、大切な理由があるらしい。
しかし、理由を言えと言われても納得などしてもらえるだろうか。
速水は、じっとこちらを見て答えを待つ少女の目をみて観念した。そして、何故彼女が舞に似ているかが解った。
真っ直ぐ見据える意志の強い瞳の色が同じだったから。
きっと彼女に嘘は通じない。
「大事な人に歌いたいんだ。」
やっと返ってきた速水の答に、少女は『ほう。』といいたげな顔つきになり、首を少し傾げて
「恋人?」
と、聞いてくる。
速水は、こくりと一つ首をたてに振る。
「じゃ、行こっか?」
そう言って歩き出した少女を慌てて追う。
「えっ・・・。それじゃ・・・。」
教えてもらえるということだろうか、少女は足を止めると笑う。
「うん。わたし好みの答えだったしね、いいよ。・・・えーと・・・。」
そこで軽く頬を掻いて速水を見た。
「・・・名前、教えてくださる?・・・なんて、こんな時って、尋ねる方から名乗るものよね?」
からりと笑うと少女は、速水を少し見上げる形で真っ直ぐ目を合わし自己紹介して見せた。
「わたしは、柴倉まり。『まり』て呼んでくれていいよ。」
彼女、まりの言葉に速水は軽い目眩を感じる。
・・・名前まで似てるの?この人。
しかも、歳は速水より「限りなく年上」(本人談)とのことだ。


  
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