きみのうた
「PRESENT」



大好きな 君の歌を
歌いたい 僕の声で
ー・・・君は馬鹿だと笑うかな?

「うーん、困ったなぁ。」
この日、速水厚志は悩んでいた。
場所は新市街の裏マーケット。彼がここに足を踏み入れて、既に一時間以上になる。何をしているかというと、商品棚の前で難しい顔をして『あーでない』『こーでもない』をしているのである。
「猫のぬいぐるみは・・・瀬戸口とののちゃんが共同であげるって言ってたしー・・・。」
あれこれ物色しつつ、ため息。
「うさぎのキーホルダーは田代さんに貰ってたでしょ?・・・きわどい水着・・・。
ダメだ殴られる・・・。」
彼の可愛い彼女は、とても怒りんぼさんだ。殴るとなれば、パーでは済まない。グー、もしくはチョキという可能性がある。
「チャイナドレスもムリだろうし。」
水着にしろ、ドレスにしろ是非彼女に来てもらいたいのだが。
店内のものを全て見終えても、納得いくものがない。
今日は4月29日。
明日は速水の大切な恋人、芝村舞の誕生日。
大切な人にこそ、誰も思い付かないような、自分だけの特別なものをプレゼントしたいと速水は考える。
しかし・・・。
実際はかなり困難である。
彼女の好きなもの・・・ー
可愛いもの
猫みたいにふわふわした小動物
紅茶
どれもこれも皆に知られてるだけに、ありきたり。
裏マーケットになら・・・。と思って足を運んでみたものの、ここもいまひとつ。
仕方なく、ブータのための猫餌を購入し店をあとにする。
「通りを見てまわれば、何か見つかるかも。」
そう呟いて通りをぶらぶら歩き出すと、道ゆく人の雑踏に紛れて小さな音が聞こえてきた。
小さな音は弦楽器の音で、小さく軽くゆっくりと、雑踏に紛れながら速水の耳に届く。

”だいすきな きみのうたを
 うたいたい ぼくのこえで”

音に乗せて聞こえてきた歌声と、その詩に誘われるように速水は音の出所を追う。
表通りからの細い路地から裏通りへ入る。少しづつ大きく聞こえる、綺麗で柔らかな女の声。
ギターとは少し違う弦楽器の音。
辿り着いたその場所には、一人の少女が歌を紡いでいた。

  
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送