サヨナラダンス
Dance with me



グラウンドの向こうへ駆けていく速水を見送るように視線を走らせる、自称『男前』。
一生懸命だねえ。うーん、青春だ。
などと、聞く人が聞くと「ジジムサイ」と言われそうなことを考えていた。
「たかちゃぁーん。」
プレハブ校舎の方から桜色の小さな天使が危なっかしい足取りで駆けてきた。
「こらこら、あんまり急ぐと転ぶぞ。」
という少したしなめる様な瀬戸口の言葉に「えへへ、ごめんなさい」と言うと、ののみはぴょんとひとつ跳ねて
「あのねあのね、あっちゃんがおよーふく『にあう』って、ほめてくれたのよー。」
と、誇らしげに言った所で白くて長くてくねくねした生物(ナマモノ)が踊り出てきた。因みに本当に踊っているとこがヘンにコワイ。
「ののみさァ〜ン、ワタシと踊って貰えませんか〜。是が非でもォオ〜。」
ののみの前の為か、パーティの為か白くて長くてくねくねした生物(ナマモノ)・・・もとい、岩田は普段の3倍位オーバーアクションで声が大きくブレている。瀬戸口は頭を抱えた。しかし、当のののみは
「うわぁ、裕ちゃんきょうはおめかしなのねー。」
と、大喜びなのである。
ののみの言葉通り、今日の岩田は何を思ったか白のタキシードだった。・・・だが、岩田風に恐ろしいアレンジが施されていたが。
「たかちゃん、行ってきてもいいですか?」
・・・不安だ。凄ぇ不安だ。
そうは思うものの、きらきらと瞳を輝かせてこちらを見上げる小さな天使の『お願い』を無碍には出来ず、瀬戸口は「行っておいで」と言うしか出来なかった。

程なくしてグラウンドの方から、きゃあきゃあとののみの嬉しそうな笑い声が響いた。それは最早ダンスと呼べる代物では無かったが・・・。
ののみが幸せならいいか。
そう思うしかないタカパパであった。
「ののみちゃん、楽しそうですね。」
一人グラウンドを眺める瀬戸口に後方から声がかかる。振り返ると、藤色のワンピースを纏った壬生屋が立っていた。袴姿しか見せない壬生屋の変身ぶりに瀬戸口はしばし見とれていた。そんな瀬戸口の反応を勘違いし、
「どうせ似合わないと思っておいでなのでしょう。わたくしだって、スカートのひとつやふたつ履いたりします。・・・似合わないかもしれませんが・・・。」
と、呟くように言う。壬生屋の言葉に「やれやれ」と思いながら
「可愛い天使にフラれたんでね。仕方ないからお前さんでいいや。」
と、壬生屋の手を取りグラウンドへ歩き出した。瀬戸口の言い様に、壬生屋はカッとなって言い返す。
「仕方ない、ですって!?あなたは本当に最初から最後まで失礼な方ですねっ。」
怒鳴りながらも、手を取られて赤らむ顔を抑えられない。
壬生屋の言葉に「ならいいさ。」と手を放しかけた瀬戸口の手を、きゅっと握るとそっぽを向いて
「・・・でも、”仕方無い"から御一緒して差し上げます。」
と言うと、ちらりと瀬戸口を見てちいさく微笑んだ。

オペラグラスの向こう、踊りを楽しむカップル達の輪に瀬戸口と壬生屋が交じるのを見て、原はため息をついてオペラグラスを放り投げた。
こんな日に、こんな日までカップル観察だなんて。
それが目当てでノリノリで許可したくせに原はやるせなげに、軽く頭を振る。
「どうしたんです?」
薄い顎髭をたくわえた男が問いかけてきた。
「別に。」
ふい、と原はあさっての方を向く。
何てニブいのかしら。
もう・・・もう、会えなくなるっていうのに。
やはり自分とは、前の別れで終わっているのかと思うとどうしようもなく苦しい。
諦めて、負けを認めてたまるものか。
そういう気持ちが、原を支えてきたのかもしれない。
だが、善行は何か意識する素振りなどかけらも見せない。
本当に底の見えない男だ、と原は思う。
「おや、あの二人が。そうですか。」
投げ捨てられたオペラグラスを拾って善行はグラウンドを見ていた。
全く、もう!!
原は心の中で足を踏み鳴らした。
なんて男、なんて男!!蛇のように冷たくて、冷酷で、馬鹿な男。
なのに、なのにどうして嫌いにならないのよ!!
心の中で善行と自分をなじりながら、原は大げさなくらい大きなため息を吐いて、肩をすくめた。
「全く、誰も彼もどうかしてるわよ。こんなにいい女がいるっていうのに。」
そういうと、ちらりと善行を見た。善行は原をみて小さく笑う。
「壁の花、というやつですか?」
「ハッキリ言うこと無いでしょ。本当嫌な男ね。」
またもや、原は視線を外す。そんな彼女の様子にまた笑うと言った。
「勿体無いですね。こんなに綺麗なのに。」
真っ白なロングのチャイナドレスで身を包んだ原をしげしげと見る善行に、原は
そんなこと言っても誘ってくれやしないくせに。
と、心の中で悪態を吐く。
ところが、そんな原の意に反して、善行は手を差し伸べた。
「"嫌な男"でも良ろしかったら、お相手してもらえますか?」
予想外の提案に『何よ、そのよれよれのスーツ。格好悪いったらないじゃない。』と、また一つ心の中で悪態をついて、その手を取った。



BGM:KenjiOzawa 「ラブリー」
Chara 「罪深く愛してよ」「HappyToy」


  
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