サヨナラダンス
恋する気持ち



さがして さがして さがして
君が誰かの手を取る前に
ダンスをしたいのは 誰?


晴れ渡る空、いわゆる快晴。
速水は昨日瀬戸口にコーディネートしてもらった服に袖を通す。
ふと、鏡に映る自分と目が合い苛立ちを感じる。
少女のような幼い少年顔。
低い背丈。
服を着替え終え、出来上がった姿をみて、流石愛の伝導師おすすめの勝負服だと感心する。
コンプレックスの青がかった髪と瞳に合わせ藍に近い青をメインにした装い。
白いシャツに深い青のパンツと同色のネクタイ。
タイはわざとリボン結びにされた。(試しに普通に結ってみたら七五三のようになり、悲しくなった。)タイよりすこし明るい青の腕章には白いクロスと黒いコウモリの羽(悪魔のつもりだろうか)が入っている。
鏡の前で、ぐるっと回って確認する。子供っぽさ全開だが、やけに似合っていて反論も出来なかった。
「僕、頑張ってくるから。応援しててね。」
愛しの少女の名前をつけた拾い猫の頭を撫でて家をでた。

「あっちゃん、おはよーございます。あれ?こんにちは??」
中途半端な時間に始まるものだから、ののみは「うーん」と考えながらも笑顔で速水の下へ駆けて来た。ひょこひょこ走る動きに併せて、下ろしたてのドレスが揺れる。
「どっちかなあ?でも、とりあえずののちゃんおはよう。」
目線を合わせ少し屈んで速水が挨拶すると、ののみは「えへへ」と笑う。子供らしい屈託のない笑顔だ。
「可愛いお洋服だね。」
と、速水が誉めるとののみはことさら嬉しそうに笑い
「えへへー。きのうね、かったの。にあう?にあう?」
と、言ってくるくる回って見せた。フレアとレースがたっぷりついた淡い桜色のオーガンジーのドレスがふわふわと揺れる。
「うん。とっても似合うよ。」
優しく笑う速水の誉め言葉に、ののみはぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
「うわぁい。ののみほめられたのよー。」
嬉しそうなののみに、速水も頬を綻ばせるが、あることに気付く。
いつもと言っていいほど、ののみの側にいる人物が今は居ない。まるで年の離れた姉妹のようで速水は見ていて心が和んだものだが、その速水の目的でもある彼女の姿が見えない。
「芝村、休みなのかな・・・?」
出発は明日だから、忙しいのかもしれない。ぽつりと呟いた速水をののみは小さく首を傾げ見上げると、ふるふると首を振り
「まいちゃん、きてるのよ。」
と、言った。速水はののみの大きな目を見た。ののみは、にっこり笑い
「だってね、ののみといっしょにきたんだもん。えっとね、はちじにきたの。きのうもね、いっしょにおかいものいってやくそくしたの。それでね、このおよーふくもね・・・あ、まいちゃんのおよーふくね、ののみがえらんだのよ。とぉってもかわいいのよー、まいちゃん。」
だんだん話がズレていっいるが、ののみは気にもせずにこにこ笑う。
「じゃあ、芝村来てるんだね?」
と言う速水の問に、ののみは「うん。」と頷き続けた。
「しばむらはやくそくをたがえてはならぬのだー。って、ずっといってたの。やくそくやぶるのはいけないことなの。めーなのよ、めー。」
ののみの言葉に、ほっと速水は胸を撫でおろし、ダンス会場とされているグラウンドを見た。
来ているのはいいが、もう誰かと踊っているのではないかと不安になる。開始してあまり時間が経ってないが、ちらほらと踊る姿がみえる。詰め所から引っ張り出されたカラオケセットからは大音量で次々と音楽がかかっている。ワルツにタンゴにサルサに演歌。果ては室戸市名物シットロト踊り(・・・。)まで様々だ。
ぐるりと目を向けたグラウンドに舞の姿はなく、まだダンスに参加してないことに安堵するが、今度は『じゃあ、何処に?』という別の不安が胸に落ちる。速水の行動は一つだ。
『捜す』
これしかないだろう。
「ありがと。ののちゃん。」
春色の天使に礼をいうと同時に速水は走り出した。
早く捜さないと。
誰かの手を取る前に。
誰かのものになる前に。
君と最初に踊るのは
僕でなきゃいけないんだ。



BGM:AyanoTsuji 「酔いしれて」「恋のささやき」 RitsukoOkazaki 「春だもの!」「サクラサク」


  
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