サヨナラダンス
春のさよなら



ー君と もっと早く会えていたら
 もっと何か 違っていたかなー


「お別れのダンスパーティとか、しようよ!」
休戦期も近づいた或る日、会議を申し出た小隊一の騒がし女、新井木勇美が高らかに会議内容を宣言した。
この提案にしばし唖然とする会議室の面々に構うことなく新井木は、無い胸を張る。
「ホラぁ、もーすぐみんなお別れじゃない。だからー、サイゴにいい思い出作んの!!あー、ボクって気が利くぅ〜。」
得意満面な新井木の言葉に一早く立ち直った委員長(議長)の善行は眼鏡を押し上げ、いつも通りの台詞を告げる。
「それでは、意見を聞きましょうか。」

5月も下旬。熊本内人類優勢。
この戦況に大きく関わった5121小隊は休戦期突入を期に一時解散が決定していた。
急ごしらえの寄せ集めなヒヨっ子部隊かと思われていだが、周囲の期待を大きく裏切り、未だ死者無し。その上熊本きってのエースパイロットを二人も抱える異例の部隊と名が知れていた。
指令の統率力から整備員の高度な技術、更には即戦力となるパイロットは、力薄な部隊からは正しく喉から手が出るほど欲しがられ、引く手数多だった。
秘密裏に行われた降下作戦の成果、熊本の安全は一先ず約束され、ならば手薄な部隊に。と、それぞれ移転されることとなった。
始めに抜ける善行と舞の出発が一週間後に迫ったこの日の前日、新井木は会議を申請していたのである。

「それでは会議を終了します。」
副議長の原の涼やかな声が会議の終わりを告げる。
「そんなチャラい事できるかよ。」や「不潔ですっ!!」等といった反対意見も上がったが、出歯亀戦隊・・・もとい奥様戦隊のリーダーと紅一点が議長と副議長である。
こんなオイシイ企画が通らない訳がなく。いともあっさりと「了承」と相成った。

決定事項は以下の通り。
◎正装(または、それに近い格好)であること。
◎必ず誰か一人とは踊ること。
そして最重要として、
◎全員参加。
で、ある。
始めは乗り気では無かった者も、青春真っ盛りな若者たち故に日が迫る毎に活気づいていった。
そんな面々の中、熊本きってのエースパイロットである速水も例外ではなかった。
彼は心密かに彼と共にエースの片割れとして戦場を駆けていた舞を想っていたが、戦場では出し惜しむ事のない勇気を彼女に対しては出すことが出来ずに、今日まで過ごしていた。
もう、今更「好きだ」と告げることは叶わないと思っていた。しかし、神(というか、新井木だが。)は最後の最後にチャンスを与えてくれた。
”せめて彼女と踊れたら”
空を見上げ息を吐き、心の中で呟く。
せめて 最後に
彼女に恋をしていた証に。
胸の奥で淡い恋の花が咲いていたことに気付くのが遅かった自分を恨みながら。




BGM:AyanoTsuji「涙風にたくして」「悲しみの風」


  
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