お天気娘

花の休みを前日に控えた土曜日、当然と言わんばかりに幻獣は出現し5121小隊は戦場へ赴き、そして多少の被害を受けたものの全員生還することが出来た。
ウォードレスから普段の制服に着替え、シャワー室から出てきた舞は重く押し潰されそうな黒い曇り空を見上げた。
細かな霧の様な雨は止むことも知らず降り続ける。
「あっ、お、お疲れ様ですっ。」
不意に投げかけられた声の方に顔を向けると、ぴょこん、と青いおさげが跳ねる。
頭を下げた際ずれた眼鏡を慌てて戻し、舞を見た。
「雨・・・止みませんね・・・。」
歩く不幸の女神、田辺は先の舞の動きを真似るように空を仰ぐ。
黒い雲は、黙って霧雨を吐き出している。
舞は「ああ。」とだけ呟いて、また空をみた。田辺は思い出したように、「あの、」と、声をかけ
舞が視線を送ると同時に問いかける。
「芝村さん、明日お出かけですか?」
「あ、ああ。・・・い、いやしかし、で、でで、でえとというわけでは、その・・・。」
突然の問いかけに、墓穴を掘り出す舞をよそに、田辺は
「あの、少し待っててください。」
とだけいうと、おさげを揺らして走り出した。
「た、田辺?」
問いかける先から「カーン」だの、「ごーん」という音がついていく。舞は首をひねりつつ田辺のあとを追う。
2組の教室に入ると、田辺は机の上に布切れを広げていた。
こんな日だった。
舞は思い返す。
『明日は、きっといい日』だと優しく笑った田辺を見たのは。
初めてまともに田辺と話したのは
こんな雨の日だった。
あの日から二人は、時には舞の恋人である速水が嫉妬する位の仲になっていった。
舞の見守る中、まるで魔法のように田辺の手の中に小さな「てるてるぼうず」が納まっていた。
「できた」という言葉の代わりに優しく微笑んだ後、それを舞に差し出した。
「あの・・・よかったら、もらって下さい。」
きょとんとする舞に、田辺は慌てて
「あの、きっと晴れると思うんです。・・・前に滝川君と速水君が誉めてくれて・・・その・・・わ、私・・・ごめんなさい。」
混乱し出した田辺に舞は問いかける。
「そのような大層なもの、よいのか?」
言いたいことが伝わったからか、優しい気遣いに対してか田辺は微笑むと
「明日、お出かけなんですよね?」と、また問う。舞は縦に一つ頷いて肯定する。
「貰って欲しいんです。迷惑じゃなかったら。・・・止まない雨はないけど、いつかきっと晴れる日は来るけど、芝村さんが出かけるなら、明日晴れて欲しいんです。」
田辺は真っ直ぐ舞を見つめて告げる。
「私の大切なお友達だから・・・。」
「友・・・だと・・・?」
舞の言葉に、田辺は慌てて言葉を加える
「ご、ごめんなさい、迷惑ですよね、私なんかが・・・その・・・芝村さんのお友達だなんていっちゃ・・・」
あまりにも消極的な田辺の言葉を制するように、舞は真意を語った。
「いや、勘違いするでない。・・・芝村には・・・私には、友と呼び友と呼べる者が少ないのでな。・・・そなたの言葉、嬉しく思う。感謝を。」
嘘のない舞のその言葉に田辺は蒼い瞳から涙を落とす。舞は首を傾げて、言う。
「泣くような事を言った覚えはないが、涙を拭くがいい。」
舞の言葉に田辺は涙をぬぐい「はい、ありがとうございます。」と、笑みを戻す。
「止まぬ雨は無い、か。」
呟いた舞の言葉に、田辺はてるてるぼうずを掲げるように差し出して「はい。」と頷く。
「昨日が、今日が、駄目でもいいんです。きっといい日がくるように、必ず晴の日も来ますから。明日はきっと晴ですから。」
舞の手のひらにてるてるぼうずが納まる。舞はもう一度「感謝を。」と礼を述べると、田辺は笑顔で返す。
蒼い瞳
蒼い髪
眼鏡の晴れ呼ぶ優しい
『お天気娘』
彼女が類稀なる好運の女神であることに気付いているのは、今はまだ目の前にいる自信と努力で形成された「明るい思想」をもつ少女のみである。


あとがき
ほんとは漫画で描こうと思ってたお話です。なにげに、初めてキーボードオンリーで書き上げました。前向きコンビ、結構気が合うんじゃないかなと思ってます。海清GPMに出会って一周年記念ss。


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