ずっと、こうして一緒に未来へ進めるものだと
一緒に大人になっていけるものだと、信じていた。
―あの日の あの熱が無かったならば。―

二人が付き合いだして、
速水は舞のペースに合わせて
少しづつ、少しづつ距離を詰めていった。
並んで帰る道、
手を繋いで、感じる熱。
頬を染めて、少しづつ舞も距離を詰めていっていた。
周りのからかう声に耐えながら、怒りながら
それでも、あどけない日々はゆっくりと流れていく。

それは、偶然の日曜の夕方の教室。
不意に壊れる事になる。
日曜でも仕事をしていたふたりは、もう誰もいない教室に荷物を取りに戻った。
作業は思うように進んで、舞は満足そうに、その顔は少し笑みを浮かべているように見えた。
夕暮れに染まる舞の顔を見て、速水は不意に不安に駆られる。
今の戦況。
段々と「女」を纏っていく、彼女。
いつか、物理的に離されてしまう不安。
無意識に彼女に手が伸びる。
伸ばした手は、彼女の手を掴み、何も言わずに引き寄せる。
驚いた舞の手から、鞄が落ちる。
夕暮れに輝く、その瞳を見つめ、ゆっくり速水は彼女の指を絡める。
そっと、顔を近づけて口付ける。
初めてでは無かったが、陽の明るさのためか場所のためか
舞は震えているような気がした。
速水は口付けしながら、絡めた指を解き、舞の肩に手をかけ、
舞の後ろに有った机へ押し倒す。
驚いて、目を開く舞を、速水はじっと見つめる。顔が赤く見えるのは
頬が照っているのか、陽の所為なのか。
舞の目を見つめながら、その身体を探るように動き出した手に
状況と意味が理解できた頃、舞の視界は紅色に滲んでいた。
何故、
どうして、
胸が痛い、
目が熱い、
「舞……。」
傷ついたような、速水の呼びかけに舞は自分が泣いている事を理解した。
違うんだ
ただ…。
いいたい事は有るのに、言葉にならない。
涙すら止まらない。
緩んだ速水の手を離して、舞は鞄を掴んで教室を飛び出す。


一人、狭いアパートに戻って舞はどうしていいか解らず蹲っていた。
「すまなかった」とか、「悪かった」とメールを送りたかったが
綴る勇気も無く、涙で腫れた目で、掴まれた手を見ていた。
熱い手が
その目が恐かった。
いつかは…そう思っていた。
ただ、まだずっと先のことだと。
考え込んでも埒がないと、舞は布団を頭から被った。



日は過ぎ、表面上は、それまでと変わらないように見えた。
速水は、舞に優しかった。
以前よりも優しくて
それは、まるで腫れ物に触れるかのようにも見えた。
だからこそ、何故か解っているからこそ、舞も素直になることが出来なかった。
ほんの少しの切っ掛けさせ有れば、修復できた、小さな罅は
日を重ねるごとに、大きくなっていく。
―休戦期を迎える頃には、皆がその違和感に気付くくらいに……―

そんな事はお構いなしに、ある朝
小隊に一時解散が言い渡された。
皆散り散りに、他の部隊へと転属になる。
それは、速水も舞も例外ではなく…。


「まいちゃん…いいの?」
舞が小隊を発つ前日、ののみが悲しげに問い掛けた。
「あっちゃんのこと、ダイスキなんでしょう?」
舞は、悲しげに目を伏せる。
―あの時、泣いて逃げたのは…―
舞は、左右に首を振ると、ののみの頭をそっと撫でた。

―あの日彼が押し倒した、あの熱を超えられなかった。―



出立日、
鞄をかけた舞は、駅の前で言葉を失い、息を飲む。
速水が立っていた。
速水は、舞に気付き、少し悲しげに微笑む。
「厚志…。」
速水の傍まで、震える足で歩いていく。
速水は、一つ瞳を伏せて、また悲しげに微笑む。
そんな風にしてしまったのは、自分。
舞の胸が、ずきずきと痛む。
速水が、ゆっくり手を伸ばす。
「舞、好きだったよ。
本当に、好きだったよ。
ごめんね、駄目な彼氏で。
元気でね。
…………さよなら……。」
痛みで、胸が焼ききれそうだ。
舞は、それでも泣くものかと、その手を握る。
あの熱を感じさせない、幸せな日々を思い出させる暖かな、手。
一つ、頭を下げて舞は速水の横をすり抜け、ホームへ向かう。
ホームに入った電車に乗り込む。
扉が閉じる。
ゆっくり、電車が動き出す。
速水が居た筈の改札を、見てみた。
そこには、もう彼は居なかった。
堪えていた、涙が溢れ出し、その手で何度も拭う。
「さよなら」と言った、彼の最後の言葉が、何度も木霊する。
―あの時、泣いて逃げたのは
好きだったから、彼を好きだったから。
自分の全てを、彼に晒す事が出来なかった。
……あと少し、ほんの少しの勇気が無かっただけ…―
ただ、それだけで壊れてしまった関係に、舞は幼すぎる自分が悔しかった。
彼を、信じられなかった。
きっと、彼は舞の全てを知ったとしても、受け止めてくれたのだろう。


もう、それは後悔にしかならない。
もう二度とは戻ることは出来ないのだろうから……―

END



あとがき
とあるSSのあとがきに書いた、バッドエンドな速舞物です。
ジャンスマ聴いてたら、結局書きたくなり…。(汗)
好きすぎて別れてしまう、幼い二人。と言う話です。

Junglesmileの「16歳」と言う歌を、速舞でやってみたのです。
2コーラス目サビから、ラストがもう、切なくて、悲しくて
トリップしては涙する位です。(海清がそういうのに弱いだけなんですけどねえ)
試験的かつ久々のSSですが、こんな暗いもので済みません。
精進します。
(つーか、舞こんな泣き虫じゃねえよ…。みたいな。)


これから始まるお話は、普段の海清のものと違い
「悲恋もの」です。
速水と舞は地の果てまで、らぶらぶバカップルでなくては!!
と言う方にはお勧めできませんので、お戻りください

大丈夫と言う方は、どうぞ↓へお進みください。

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