ゆっきー様よりいただきました
企画参加のお礼として!!
大したもの何一つ提出していないのに、何時も素敵なもの下さいます。
本当に本当に有り難うございます。


夜明け

速水厚志がWCOPを獲得した。
突然厚志の前に現れた準竜師は、その目を見た。
「・・・」
「・・・準竜師。そろそろ、次の予定が。」
「わかっている。・・・厚志、
 今日から芝村を名乗るがいい。
 新興名士の名ではあるが、その名は、役に立つこともあるだろう。

元々私も、芝村ではなかった。芝村になったのだ。
 あとは・・・好きにせよ。お前が正しければ、お前は勝つだろう。困ったら頼るがいい。」

 

芝村準竜師が、更紗を従えて立ち去った。

厚志がWCOPを手にしたという噂は瞬く間にひろがり、

気遣った誰かが言い出したことかもしれない。

5121小隊の中で、それはいきなり可決された。

 

 

 

「うぉぉぉ! 遅刻する!
 本田は、麦藁帽子に浮き輪とイルカのクッションとその他色々な物を持って走った。
 教室前で、立ち止まる。
 5121小隊はキャンプ休暇中です。
 連絡不可。以上、よろしく。
 そのうち戻ります。
 本田は、こけた。

 

「よかったんですか。ほんとに」

厚志は善行に尋ねた。
「いいですよ、別に」
「本田はどうした」

ポニーテールを揺らして舞が尋ねた。
OFFでまで銃を撃たれたくありません」
「賢明だ」

 

「よーし! 一抜けー!」
「あ、私も」
「ずるい! なんで、さっきから、先生と新井木ばっかりあがるんだよ!」
「秘密」
「うふふふ。ヒントは顔かな」
「・・・?」

滝川と芳野先生と新井木がトランプをしている。

カードを引くたびに滝川の表情が変わる。

 

「加藤・・・大丈夫か」
「あ、うん。大丈夫。風にあたれば、酔わへんから」
「・・・馬鹿な奴だ」
「えへへ、なんか、ひさしぶり心配されたわ。
 あー、ずっと車に乗ってたいわ」
「くっつくな。くそ・・・車の中だけだぞ」

加藤祭が狩谷によりそっていた。寄り添う姿を皆が見ないようにした。

 

「はい、よくできました。じゃあ、つぎはどうかな」
「えっとね・・・4?」
「あたり。偉いですよ」
「えへへ。ぎゅー」
壬生屋がののみに算数を教えているのを瀬戸口が微笑んでみていた。

「いつもこうならいいんだが」
「なんですって」

壬生屋の表情が変化するのを見て瀬戸口は口を閉じた。

 

「何で僕が、ねえさんと同じ席になるんだ」
「・・・私だって、あんたみたいな悪魔なんかと一緒にいたくないわよ」
「奇遇だな」
「・・・」
「・・・」

森と茜がぷいと顔をそむけた。

 

「私は悲しいわ、だって誰も来ないのよ」
「仕方ないですよ。くじですから」
「私が若宮君や森さんなら、車から車にジャンプくらいするわ」
「布団、干すの手伝いますか」
「馬鹿」

整備班の遠坂に原がすねてみせた。

 

「・・・海の、匂いだ」
「そろそろだな」
「・・・」
「・・・」
来須と若宮が潮風にあたりながら海をみていた。

 

「・・・あの、そこに、遠坂さん・・・きゃあぁぁぁ!」
田辺は、風に飛ばされてトラックの屋根から、飛んでいった。

「まだ、死んでいない」
「・・・そうか」

若宮と来須は田辺を見て何事もなかったかのようにつぶやいた。

 

「やっぱり、みんなで、ご飯作るでス。それがキャンプでス」
「・・・となると、カレーか。馬鹿に刃物を持たせないようにして、

えーと、と言っても飯盒の飯たきにはコツがいるばい」
「いいじゃないですか、少しくらい、おいし、なくてモ。楽しいから、いいでス」
「・・・むぅ」

ヨーコに微笑みかけられて、中村は頬を染めた。

 

体育座りしている士魂号の肩で、ブータは凛と座っている。
大きな水溜まりをみて、大昔のことを、思い出した。

「フフフ、これで、いつ出動が掛かっても大丈夫です。・・・しまった、久しぶりにまじめなことを言ってしまいました!」

後悔する男、岩田。

 

「オメー、なにやってんだ?」
「・・・雨・・・呼んでいるわ」
「なんで、泳ぎ行くのに雨呼ぶんだよ」
「・・・水着・・・嫌い・・・だもの・・・」

 

石津と田代が話しているのを聞いて坂上がつぶやいた。

「というより、まだ寒いような気がするんですが」

 

列を作った軍用トラックから、海が見えた。
歓声があがった。

 

 

潮風の中では、普段と同じ事が新鮮に感じる、海キャンプの午後。

5121小隊のメンバーは海へキャンプに来ていた。

5月中旬の熊本とはいえ、まだ少し海の水は冷たい。

しかし、そこはそれ、第6世代というある意味特殊な世代だけに、楽しさが優先するものらしい。

 

着いたなり、滝川は若宮に笑いながら海へ投げ込まれ。

中村は物資の少ない中、バーベキューセットを調達して腕を振るっていた。

傍らには意外にも原主任と森がおにぎりや漬物といったものを持参し、これでは足りないだろうと水着にジーンズといったいでたちで焼きそばにもトライしていた。

まあ、物資の殆どは芝村と遠坂の手を借りていたから集められたのかもしれないが・・

加藤が愛する、なっちゃんのために東奔西走したせいでもある。

 

ののみは瀬戸口を相手に砂の城を作っていた。

その傍で、壬生屋は珍しく着物以外の姿をしていた事から、

瀬戸口にからかわれ、真っ赤な顔をして怒っていた。

あいかわらず仲がいいのか悪いのか分からない二人だ。

それでも、ののみに「めーなのよ!」と怒られて仲直りをするあたり、

「どちらが年上かといわれそうだな」と茜が笑った。

 

善行は来須や小杉、田代とともにテントを張っていた。

「あ〜さっさと海に飛び込みたいぜ」

「田代さんちょっと・・・」

田代が海に入りたそうな様子だったが、どうも善行に何か言われたらしい。

しぶしぶテント貼りに興じていた。

 

一方、田辺が魚を釣ろうと岩辺に行こうとしたのを遠坂が声をかけた。

とたんに、田辺の眼鏡が落ちた。

「あっ!!」

「また割れてしまいましたね」

「でも、大丈夫です!」

何処から取り出したのか、スペアを出す田辺に遠坂は優しくエスコートしていた。

「お怪我はありませんか?」

聞かれ頷く田辺の姿に石津は持ってきた救急箱をかくしていた。

 

そんな石津のまえで壮絶に血をはいて砂に倒れるのは岩田だった。

「なに・・・してるの」

「イワッチは皆さんにワナをしかけま〜す」

「させるか!!」

そう言って岩田を砂で埋め始めたのは、速水芝村の名コンビだった。

倒れた瞬間を目にした時に、ふたりで砂を岩田にかけたのは、言いようのない悪寒が走ったからにほかならない。

「やっぱりやられる前にやらないとね♪」

「そうだな・・・。これもまた我らの使命だ」

などといいながら結構楽しんでいるらしい。

 

普段から砂遊びをした事もないという芝村には何もかもが新鮮に映った。

厚志はそのとなりで時々ふっと海を眺めては、またサンドアートに取り組んだ。

サンドとつくものは何でも得意なのかもしれない。

顔以外、胴体は全て砂に埋められ、ご丁寧にグラマラスボディをポーズつきで作られると岩田の顔が恍惚とした。

「おぉ〜う、エクセレント」

しかし顔とのギャップで皆、しばらく腹筋がよじれて戻らなかった。

 

 

夜には誰が持ち込んだのかアルコールもあり、年長者たちはその酔いを楽しんでいた。

 

「そう言えば、岩田君の顔をみてないけど」

「さてさて、速水君と芝村さんから岩田君を砂に埋めたと報告がありましたが・・・」

「岩田君がいないって何人気づくのかしら」

「さて、どうでしょうね。仲間もいることですから、そのうち見つけるでしょう」

善行は原が苦笑いを浮かべていたので、まあ、よしとした。

 

一方、ののみを除いては、バーベキュー以外にも色々持ち込んだ物を片手に

飲めや歌えの大騒ぎと化していた。田代は花火を手に喜んで火をつけていた。

これが楽しみだったらしい。

 

そんな中、誰にも気付かれることもなくひっそりとたたずむものがひとり・・・。

「イワッチ、ショーック!!」

岩田が見つけられるのは翌日の朝になってからだろう・・・。

 

 

 

 

 

ようやく皆が寝静まったのは明け方近く。

 

整備で徹夜にも慣れている所為か、

明け方が近づいてようやく皆が疲れて眠った。

 

月が煌々と照っていた。

 

 

厚志は不意に物音で目が覚めた。

近くのテントから誰かが出ていったらしい。

砂を踏みしめる音がしていた。

 

(舞のいるテント?)

気になってテントの隙間からのぞくと舞が海岸へ向かって歩いていった。

(どうしたんだろう?)

厚志は気付かれないように距離をおいてそっと後に続いた・・・。

 

切り立った崖が海岸のそばにあった。

舞はワンピースの裾を抑えながら、ゆっくり踏みしめるように歩く。

 

厚志はその姿を見失わない程度に距離をおいて

岩肌がむき出しているその崖を登った。

 

崖の上まで来て、突然蒼い海が目に飛び込んできた。

ずっと下の方にみんなのテントが見える。

そして、遠く水平線の向こう側に

夜明け前の薄紫の空が、海の蒼へグラデーションを描いていた。

 

薄紫の空を輝きに変えて空に染め上げていく前の

世界がその色をかえる瞬間。

夜明け前のほんの一瞬だった。

 

「ま・・・い?」

「何だ厚志か・・・」

 

舞は肩ごしに厚志を見るとすぐにまた海に目を転じた。

 

「どうしたの?こんなに早く」

「いや、目が覚めたのだ・・・眠れなかったと言ったほうがいいか」

「だめじゃない、ちゃんと寝ないと」

 

心配そうに声をかけると、舞は海を眺めながら聞いた。

 

「そなたこそ・・・はしゃいではいたが、何かあったのか?」

「・・・・」

「違ったか?」

「どうしてそんな事を聞くの?」

「いや、何もないならよいのだ・・・ただ、昨日は

 騒いでおるようでどこか落ち込んでいるように見えたのでな」

「何で・・・気付かなくていいのに」

「・・・やはり、な・・・分からないと思ったか?

そなたの様子が変だと感じないようではパートナーは勤まるまい・・・」

「そういうものなのかな?心配してくれるのは嬉しいけど・・・」

「ふっ・・・そなた、何をなやんでおる・・・」

「別に・・・大した事じゃないよ・・・」

「そうか、なら別に話さずともよい。見よ、厚志、夜があける」

「まい・・・僕・・・」

 

思わず話し掛けた厚志が見つめる中、

朝日を背にして舞がこちらを向いた・・・。

まぶしくて思わず目を細める厚志。

 

 

―――――厚志は一瞬、呼吸を忘れた。

 

 

オレンジ色に世界を染め上げていく光は暗かった空を明るく照らし、

世界の色を夜明けの色にぬりかえていった。

そしてその光は真っ白な舞のワンピースをもその色に染め上げていく。

 

厚志はその光景をまぶたの裏に焼き付けようと知らず瞬きを繰り返していた。

 

「・・・きれいだ・・・空も海も・・・」

「ああ」

「・・・君もね・・・まい・・・」

「た、たわけ・・・しかし、そなたも同じ色に染まっているのだぞ・・・」

「君のそばにいるからね・・・」

「そうだな」

 

厚志の白いTシャツも舞同様、朝日に染められていた。

厚志は舞に意味深な笑顔を見せた。

 

「それに『芝村』のそばにいれば朱に染まるものだし・・・」

「それも世界の選択だ・・・」

「でも、そばにいる・・・やはり僕も芝村の色に染められていくのかな?」

「WCOPを手にしたのだ、芝村を名乗る権利はある。

伊達や酔狂でこんなものを手に入れたいと思う者は他におるまい」

「僕ぐらいかな・・・あはっ」

「そうだな・・・」

「あっ、ひどい。真剣に欲しいと思っていちゃ駄目なの?」

 

どこかすねた風に厚志は笑った。

しかし、その勲章は命がけで、手にしたも同然だ。

芝村として生きるということは力を手にすると同時に

命を狙われる事もあるのだ。

 

急に真顔になり厚志は言った。

「でも僕は、決めたから・・・」

「そうか・・・」

「うん・・・例えこの身が暗闇に堕ちたとしても」

 

沈黙が厚志と舞の耳に心地よい波の音を響かせる。

 

(人間の中にはよどんだ空気をまとう人間もいるし

毒を吐く人間もいるというのに芝村を選ぶ

こうして舞のそばだけは全てが清浄に感じる)

 

厚志は深呼吸をした。

朝の冷たい空気が灰の中に満たされた。

 

 

傍らの舞が厚志の瞳をじっと見つめる。

そのはしばみ色の瞳が自信に満ちた光をたたえた。

 

 

「心配するな。明けない夜はないのだぞ、厚志」

 

 

その笑顔が眩しくて、おもわず目を細めた。

いつもはポニーテールをしている舞の髪は今おろしていて

風にゆれている。

眩しいまでの輝きは舞の心そのものだった。

 

「そうだね・・・君が言うとそんな気がするよ」

「たわけ・・・私はただ一般論を言ったまでだ

・・・そ、そんな顔でこっちをみるな//

「え〜、いいじゃない。僕は君を見ていると、

なんだか幸せな気持ちになるんだものv

それとも芝村は見るだけで怒る一族なの?」

 

「そ、そんな事はないが・・・」

「ならいいじゃない。ほんの少し僕に幸せな気持ち分けてくれても・・・ね?」

「へ、へんな奴だ。そなたはそんな事で幸せになれるのか?」

「ふふっ、そうだね。実はもっと幸せになる方法もあるんだけど聞きたい?」

 

ぽややんとした笑顔を向ける厚志に、舞は聞いてみたくなった。

厚志がもっと幸せになる方法・・・。

普段の自分なら気付かないことかもしれない。

 

「それはなんだ?」

 

舞は素直に聞いた。

 

「えっとね〜恥ずかしいから、もうちょっとこっち来てくれないかな?」

 

言いづらいのか、厚志は舞を手招きした。

舞が海の方からゆっくりと近づく・・・。

 

「ああ、このぐらい近くでいいのか?」

「そうだね・・・」

 

そう言うと厚志はすかさず舞の頬にキスをした。

 

触れるだけのキスだったが、舞の動きを封じるのには十分だった・・・。

 

やっと我にかえった舞が、朝日を浴びた頬より

ずっと紅くなった頬を抑えて怒るのを

厚志は笑いながら見つめていた。

 

 

 

幸せな朝・・・明けない夜はもうこない。

夜明けはいつでも彼女のそばにあるのだから。

 

 

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ゆっきー

 

時期はずれですが、いかがなものでしょうか?

 甘あまですみません〜明けない夜はないのはこの二人だから
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